鉄の女の「銅像」

in_situ2007-02-23



PrizeとAwardなど翻訳の細かい違いに執着するワタクシが、銅とブロンズの違いを見逃すはずもない。
Awards and Prizes - diary in situ


サッチャー元英首相>「鉄の女」が帰ってきた…銅像完成(毎日新聞 - 02月23日 11:51)
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/europe/news/20070223k0000e030024000c.html


元イギリス首相のマーガレット・サッチャー氏の銅像が議会のロビーに置かれるというニュースだが、以下の一文にひっかかった。


<引用>
「鉄の方が良かったけど、銅でもいいわ。さびないし」とユーモアたっぷりにあいさつ、健在ぶりをみせた。
</引用>



日本語の銅像は、英語ではbronze statueである。ブロンズ、そう、青銅である。青銅は、銅に錫を混ぜた合金である。copper statueってのも存在するが、検索結果をながめると、どうにもオリエントというか、エジプトやインドから東側のイメージ、ぶっちゃけ非西洋っぽいものを、copper statueと称するような語感がある。


ようは、イギリス人がcopper statueって言う場面が想像できないので、実際に、"Thatcher iron lady bronze"検索してみると、以下のような見出しがいくつもひっかかったわけさ。


Iron Lady is honoured in bronze
BBC NEWS | UK | UK Politics | Iron Lady is honoured in bronze


Britain's 'Iron Lady' turns bronze
http://www.news.com.au/story/0,23599,21267775-1702,00.html


まぁ、英語ではbronze medalが、日本語では銅メダルなので、毎日新聞が「ブロンズ像」を「銅像」と書くのは、十分許容範囲ではあります。でも、気になるのはちょっと気になる。。


ちなみに、Googleニュースで検索すると、サンケイは「青銅」と訳し、共同通信は「ブロンズ」としている。
産経ニュース
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20070222&j=0026&k=200702227488


ちなみに、毎日がタイムズ紙から転載した記事では「議会」の前とぼかされているが、これも、BBSによれば、"House of Commons" 庶民院(もしくは下院)、日本で言うところの衆議院サッチャー氏はのちに爵位を得て、貴族院議員となっている。貴族院はHouse of Lords。この貴族院も日本の参議院とは違って、いろいろおもしろいことが多い。


再度、サッチャー氏のコメントに立ち返ると、鋳造されたばかりのブロンズ像は、十円玉のような色であり、BBCのニュースの写真でみるような青銅色ではない。あれは、表面に酸化皮膜ができることで青銅色になる。ようは、錆びた結果なのだ。なので「さびないし」ってのは、勘違い。もっとも、表面の錆びである酸化皮膜は、錆を内部に進行させないので、その意味では目的には適っているのだが。


英語だとこう言ってます。


"I may be made of iron but bronze will do."



この「さびない」には、続きがあって、


"It won't rust. And, this time I hope, the head will stay on."



(ブロンズは)さびないし、今度は、クビがおちないのを期待してます。


と続いている。この「今度は」は、Guildhall Art Galleryってところに置かれた、大理石のサッチャー氏の銅像が、反サッチャーの抗議者によってクビを落とされたことに起因してるそうな。


これが「銅でもいいわ」ならぬ「どうでもいいわ」だったら、またニュースの印象が違うんだけどね。