百均みたいなのが一位


赤ちゃん命名、男の子1位4年連続「大翔」
http://news24.jp/articles/2009/12/08/07149301.html

名前ランキング:1位「大翔」くん「凛」ちゃん−−09年赤ちゃんベスト10
(毎日新聞 2009年12月8日 東京朝刊)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091208ddm012040115000c.html


ダイショウねぇ…大阪証券取引所をニュースではダイショウって呼ぶけど.なんだかテレサ・テンの『つぐない』を思い出します,代償.淋ちゃんってのは,アレですな,旦那が浮気すると貰ってきちゃうヤツ.中尾彬の「あきら」に似ているけど,違う字です.アキラ自身も悪い菌は持ってそうですが.


「 09年に生まれた赤ちゃんの名前で一番多かったのは、男の子は4年連続で『大翔』、女の子は『凛』だったことが、『ベネッセコーポレーション』が行った調査でわかった。」


巷ではDQNネームという言い回しが,密かに浸透している.そういうのを見物するコミュニティにも参加しているが,いやはや,昨今の親御さんはクリエイティビティに富んでいる事には驚かされます.DQNネームってなに?と思った方は,リンク先に説明があるので参考にしていただきたい.実在する保障は無いのでネタとして読んでほしい.というか,実在するとすれば,その子等が不憫でならない.


DQNネーム(子供の名前@あー勘違い・子供がカワイソ)
DQNネーム(子供の名前@あー勘違い・子供がカワイソ)




いったい,アメリカに何人のJohnやBob,Maryがいると思っているのだろうか?彼らのうちの何人が,自分の名前が個性的で無いと悩むだろうか?修辞疑問なので,回答は求めていない.

アメリカ人で,少々めずらしい名前だなと思えば,大概は移民の子であり,その出自に由来する名前を背負っている.今のアメリカ大統領のバラク・オバマ氏も,出生地はハワイだが彼の父はケニア出身で,ハワイに留学している時に,オバマ大統領の母親となる女性と出会っている.そもそも,Barak Obama, Jr.が彼の本名で,彼の父,Barak Obama, Sr.と同じ名前である.Sr.とJr.で,二代にわたって同じ名前を使いまわしている.


余談に余談を重ねるが,ハンバーガー屋のマクドナルドは,英語ではMcDonaldと表記するが,これはson of Donald(ドナルドの息子)の意味である.Mac-(スコットランド系)や-sonも同様で,息子である事を意味する.ちなみに,O'はgrandson(孫息子)を意味している.理系の出版社として知られるO'Reillyは,Reillyの孫息子という意味になる.アイルランド系に多い.


英語が苦手でなかったらこの辺をどうぞ.
Mac, Mc prefix - Knowledge Base, HouseofNames.com



なにも,こうした名前の継承はアメリカ人というか,アイリッシュスコティッシュに限られた話しではない.日本でも,今尚続いている.比較的知られているのは,ミツカンの社長の名前だろう.ミツカンの社長は,代々「中野又左衛門」を名乗っている(四代目以降は「中野」から「中埜」と変わっている).現在の社長は,中埜 又左エ門 和英だ.
七人の又左衛門:ミツカンのはなし│ミツカングループ商品・メニューサイト


現実問題として,名前に流行り廃りがあることは否めない,されど,名前は0歳の子から100歳まで使われる事を考慮して,20代や30代の親が,要らぬクリエイティビティなど発揮しない方が子どもにとっては幸いだろう.名前においては,その時代に流行っているという共時性よりは,通時性に重きを置いて考えるべき対象だ.



これの反対を行く,日本DQNネームの父と言えば,文豪,森鴎外をおいて他にないだろう.


於菟(長男),茉莉(長女),杏奴(次女),不律(二男),類(三男)の三男二女をもうけているが,その読みたるや,オットー,マリー,フリッツ,アンヌ,フリッツ,ルイだ…留学したドイツかぶれ丸出し.


しかも,恐るべき事に,鴎外の長男於菟の子どもも鴎外の命名にはじまり,見事なDQNネーム揃いだ.


長男:森真章(−まくす、1919年 - 2000年) 鴎外が命名。医学博士
二男:森富(−とむ、- 2007年) - 鴎外が命名。女児が生まれていたら「百合」になる予定だった。元東北大学教授。
三男:森礼於(−れお、- 2000年) - 以下は於菟が命名東芝総合研究所首席技監など。
四男:森樊須(−はんす、- 2007年) - 元北海道大学教授。
五男:森常治(−じょうじ) - 元早稲田大学教授。
森於菟 - Wikipedia


当のマックス君なんか,Wikipediaの記述を見ると,その珍名とおじいちゃんが有名人である事が理由で項目が立っているに過ぎない.アズマックスみたいでもある.


「名前は、鴎外が『将来国際的に外国でも通用するように、外国人が覚えやすいように』という願いを込めて命名した。鴎外は、自分の本名である林太郎という名前が、外国人になかなか覚えてもらえなかったということと、ドイツ留学時代の先生の名前がマックスだったということからこの名前をつけた。」
森真章 - Wikipedia


国際的に外国でも通用する名前を付けられたマックスくんは,日本領だった当時の台湾で大学教授を務めているが,それ以外海外で活躍したという業績は聞いた事がない.当然の事ながら,日本語版以外にWikipediaにおける森マックスの記述は無い.鴎外の取り越し苦労だった挙句,後年こうしてネタにされている.言っちゃ悪いが,有名人の子どもかもしれないが,その名前だけで「出オチ人生」だと断じてもいいだろう.


その文学的業績において,近代文学の金字塔たる鴎外が尊敬すべき存在である事は論を待たないが,その名づけセンスは暴走族あらため珍走団と何ら変わるところがない.稀代の文豪にしてこの始末だ.いわんや市井の皆々様方においては,ゆめゆめオリジナリティなど追求しない事をおすすめしたい.



名前は親の生半可なクリエイティビティを発揮する場ではない.なぜなら,一見名前は自己に従属しているようでありながら,実は他者が己を同定する際に呼びかけるためのものであり,本来社会的,関係論的に成り立つものでもある.それゆえ他者から認識されない,されにくい名前というのは目的に反している.



今日,アメリカでいちばん活躍していると思われる日本人は,鈴木一郎だ.日本一凡庸な名前であるはずの彼は,天分と努力とによって,メジャーリーグの記録を塗り替えている.子どもによかれと思うのであれば,名前は創作するのではなく,自分の家系や父母,親族の名前を一字もらうくらいにしておく事をおすすめする.


以下は,検証が必要な仮説ではあるのだが,表意文字を用いて,尚かつ音読みと訓読みのある日本語においては,創作珍名がつくり易い環境にあると思う.料理屋の屋号などに,苗字とは異なる字を当て字は,節度を保っていれば風情がある.当然の事ながら,真っ当な料理屋が読めない字を当てるはずも無いだろうし.


姓名判断や画数というのも,本来は「既存の名前」から,自分の姓と組み合わせた時のバランスを見るものだったと予想するのだが,いつからか,珍名でも画数だけよければ良いと言う自由和作文的な命名へお墨付きを与えるような事になっているのではなかろうかと思う.