442連隊からFort Hoodへ(未完)



米基地銃乱射:容疑者、イスラム教徒で嫌がらせ 除隊希望
毎日新聞 - 11月07日 19:42)
http://news.google.co.jp/news/url?sa=t&ct2=jp%2F0_0_s_0_0_t&usg=AFQjCNHHZ0LXLN0XIuu7zkFx5BPQsFmb8A&cid=1316696108&ei=mMn3SpayM4ePkQXagfs9&rt=SEARCH&vm=STANDARD&url=http%3A%2F%2Fmainichi.jp%2Fselect%2Fworld%2Fnews%2F20091108k0000m030034000c.html


5日にアメリカ陸軍のフォートフッド(Fort Hood)基地で,精神科医のニダル・マリク・ハサン(Nidal Malik Hasan)少佐が銃を乱射し13人が死亡した.2009年,オバマ大統領が,ノーベル平和賞を受賞したが,アメリカはイラク,アフガンと今尚交戦中だ.


AFP通信によると,同様の事件はいつどこで起きても不思議は無かったとのことだ.




軍での銃乱射事件、「いつどこで起きてもおかしくない」 市民団体が警告
2009年11月08日 23:41 発信地:ワシントンD.C./米国
軍での銃乱射事件、「いつどこで起きてもおかしくない」 市民団体が警告 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News



この事件には,志願兵と米国籍の取得,良心的兵役拒否日系人による米陸軍422連隊など,今にも禍根を残す様々なアメリカの病巣が埋まっている.数年来,こうした問題に関心を持っているが,いまだにまとまった文章を残せずにいる.


AFPのニュースから,元軍医の証言を引用する.




「 イラクへの従軍を拒否したMatthis Chiroux元軍医は、このような事件について、『いろいろな場所で起きる可能性が十分ある。PTSD心的外傷後ストレス障害)を発症した帰還兵ならば同じことをしかねないからだ』と語った。


 イラクアフガニスタン両戦争に従軍した米兵1600万人以上のうち、約20%がPTSDを発症しているという。にもかかわらず、米軍が帰還兵とその家族に適切な治療を提供していないとして、米軍に対する批判が高まっている。」


中略.同元軍医はハサン容疑者の心情を推測して以下のように述べている.


「 ハサン容疑者はウォルターリード陸軍病院精神科医として勤務していたが、今年に入ってフォートフッド基地に転属となり、今後はアフガニスタンに派遣される予定だった。


 ハサン容疑者の家族によれば、同容疑者はくり返し除隊を希望していた。また、アフガニスタンで同胞のイスラム教徒と戦うことが嫌だったとも伝えられている。」


Matthis Chiroux元軍医以外にも,AFP通信は,米国内のイスラム教徒と米軍の軍事展開における問題を指摘している.




米国が直面する軍とイスラム教徒の問題、フォート・フッド陸軍基地の銃乱射事件
2009年11月07日 10:30 発信地:ワシントンD.C./米国
米国が直面する軍とイスラム教徒の問題、フォート・フッド陸軍基地の銃乱射事件 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News




「約140万人の米国の軍人のうちイスラム教徒だと公言しているのは約3500人。ハサン容疑者もその1人だ。


 犯行の動機は明らかになっていないが、ハサン容疑者の人物像から、容疑者の信仰と感受性が犯行につながった可能性もあると指摘されている。


 ハサン容疑者のおばは、同容疑者は軍で反イスラム的な嫌がらせを受け、除隊を希望していたと語っている。また、容疑者の同僚の1人が米Fox Newsに語ったところによると、ハサン容疑者は米国のイラクでの戦争に怒りを覚えており、イスラム教徒は「立ち上がって侵略者と戦うべきだ」と話していたという。」


ハサン容疑者はヨルダンからの移民の家で,米国バージニア州にうまれた.高校卒業後すぐに陸軍に入隊し,軍から大学と医学校進学のための費用を援助された.そうした事実がPTSDにあわせて,宗教上の理由という重大な衝突にも関わらずハサン容疑者の除隊を難しくしたのかもしれない.


フォートフード事件、「反戦イラク帰還兵の会」が追悼声明
フォートフード事件、「反戦イラク帰還兵の会」が追悼声明


日本のテレビ,新聞では,イラク帰還兵のPTSDまでは語られるが,米軍内のイスラム教徒が対イスラム戦争に狩り立てられているという事にはほとんどページを割かない.宗教上の対立について敏感でない日本からの特派員や,日本のデスク,ディレクターによるニュースへの対応だろう.本件については,アメリカのメディアの真摯な対応を信じて,続報を待つ.




ここから先,筆が重いのは,これが対岸の火事ではなく,たかだか60年前の,日系アメリカ人にも起きた事柄でもあるからだ.


先の大戦中,多くの在米日本人が強制収容所に監禁され,財産を没収された事は,広く知られた事実だろう.同じくアメリカと戦っていた枢軸国からの移民であるドイツ系アメリカ人,イタリア系アメリカ人に対しては同様な措置は取られていない.戦後,アメリカは政府による謝罪は行っているが,存命の者に限り一人当たり二万ドルの賠償を行ったが,今日に至るまで財産は回復されていない.こうした収容者の中には,イサム・ノグチパット・モリタらの著名人に混じりジャニー喜多川メリー喜多川らが現在も生存している.また,山崎豊子原作の『二つの祖国』および,それを原作としたNHKドラマ『山河燃ゆ』として放送されているが,ビデオ,DVDともに発売されていないので未見となっている(『二つの祖国』は近々読もうかと).


日系人の強制収容
日系人の強制収容 - Wikipedia



もう少し近代史に興味を持った人であれば,こうした日系人の中から,志願兵として組織された「日本人部隊」がヨーロッパ戦線で数々の功績を挙げた事も知られているだろう.ヨーロッパ戦線において,彼ら日本人部隊はアメリカ陸軍442戦闘隊は,彼らの父母らの祖国日本の同盟国であるドイツ軍と,アメリカ兵として対峙した.彼らは,アメリカ合衆国史上,最も多くの勲章を受けた部隊として語り草になっている.




第442連隊戦闘団
第442連隊戦闘団 - Wikipedia




これを,アメリカによる輝かしい戦果(だけではないのだが…)としてつづられたのが,SF作家,翻訳家としても知られる矢野徹による『442連隊戦闘団』だ.




もっとも,本書においてはローマを目指したモンテ・カッシーノの戦いで多大な功績を挙げながらも,目前になりローマ攻略を許されなかった同部隊(代わりに白人部隊がローマへ攻め入った)については「つづいて,六月四日,歴史的な遺跡の破壊を惜しんでドイツ軍が撤退したあとのローマを,アメリカ第五軍は,一滴の地も流すことなく占領した」(同書140ページ)とあっさり綴っているあたり,作者に思うところがあったのではないかとも思う.


『442連隊戦闘団』が日本人部隊の活躍を描いたものであるとすれば,日系アメリカ人ジョン・オカダによって記された『ノー・ノー・ボーイ』は,その影を描いている.シアトルは,2001年のイチロー・スズキに先駆けること50年あまり,オカダの描く日系人イチロー・ヤマダは1943年強制収容所の中で日系人に行われたふたつの質問「米国に忠誠を誓い、日本への忠誠を放棄するか」,「米軍に従軍する意思があるか」のふたつに,それぞれNO-NOと答えた事で,"No-No Boy"と呼ばれる成年男子,従軍適格者の中で敵性外国人と認定され収容所送りとなる.物語は,イチロー強制収容所を出てシアトルに戻る場面から始まっている.


ノー・ノー・ボーイ (小説)
ノー・ノー・ボーイ (小説) - Wikipedia




自分の日記の長さにあきれたのと,この先を一気に書き進めるだけの勢いを欠く事で,中途半端なままに日記は終わりになります.


[追記]
なんで,そんなむかしの話が対岸の火事でないのかというと,自身の越境者というか,どうにも座りのいい居場所を持たない流れ者(こう書くとカッコいいね)身の上を重ね合わせていたりもする.また,一月ほど前に,開高健『日本三文オペラ』を読了し,今歩いている大阪と終戦間もない大阪が重なりあったり,いろんなねじれの果てに,奇妙な共感をおぼえているからかもしれない.