「誤ったイメージ」なのか?;「ハッカー新社会主義者論事始」



「正義のハッカー」育成…初の全国CTF大会
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120215-OYT1T00609.htm


日本における「ハッカー」に関する一般的な(適応範囲はあいまいですが…)認識は,記事にあるような「誤ったイメージ」ではなく,一面的な印象しか認められないのが問題なだけだと思う.

「日本では『ハッカー=悪』の誤ったイメージからタブー視されてきた」


「一方の日本では、本来、コンピューターやネットワークの技術に精通した人物を指す『ハッカー』という言葉が、技術や知識を不正行為に使う『クラッカー』と混同され、ハッキングのコンテストはなかなか開かれなかった。2003年には経済産業省が高校生によるCTF大会、通称『ハッカー甲子園』を計画したが、「国が“犯罪者”を育てるなんて」との異論が出て開催は見送られた。」

「日本だけが特殊で世界では…」は,マスメディアによる誤謬の常套手段だ.もっとも,最近は素人でも「ほんまかいな?」と思ったら調べる事が可能だが.読売新聞は記事の中でこう言い切るが,伝説のハッカーの一人,キャプテン・クランチことJohn Draperは,ブルーボックスを使った電話のただ掛けの方法を世に広めた人物だ.アメリカ社会においても,彼を「正義」の人と呼ぶのは限られたコミュニティに属する人物だろう.


[ John Draper - Wikipedia]


キャプテン・クランチに限らず,著名なハッカーはしばしば反社会的というか,あまり社会になじまない独自の規範に基づいて行動することにより社会との軋轢を生じることも少なくない.先ごろ無くなったスティーブ・ジョブズと,盟友スティーブン・ウォズニアックは,ブルーボックスを使ってローマ教皇にいたずら電話をかけている.


そもそもが,IBMなどのメインフレームはともかくとして,いまのPCを作り出したのはヒッピーなどのサブカルチャーの文脈にいた変わり者たちだ.マリファナ吸ったり,変な宗教に傾倒したり,インドを放浪したり,集まって独自ルールの集団生活をはじめちゃう,日本のオウム真理教と同じような人たちだ.Appleを創業したスティーブ・ジョブズってのはそうした一味の一人だった.余談だが,iPhoneを片手にスーツをびしっと来たサラリーマンが,ジョブズがうんぬんと旧知の友人のように語るのには違和感をおぼえた.


参考;
Hacker ethic - Wikipedia


だから,その中の一部が,セキュリティホールを発見した成果を元手に企業に勤めたり,契約を結んだとしても,「正義のハッカー」というこの記事には違和感を禁じえない.


彼らの信奉する「正義」は,無料,公開,共有だ.社会主義政権は滅びたが,その思想(の一部)はコンピュータやネットワークの深く静かに流れている.


Gnuなどの試みは世の多くのビジネスマンにとっては違和感のもと以外のなにものでもないだろうが,現在のコンピュータシステムの多くがこうしたあやしげな人たちの成果を土台にしている.


CopyleftCreative Commonsの考え方も,既得権をおさえているコンテンツ産業にとっては悪以外の何ものでもないだろう.


日記タイトルの「ハッカー社会主義者論事始」だが,社会主義は政権としての役割を終えて,システムとして世界に広まったと考えてみたら世の中の見え方が少し変わってくるのではなかろうか?


悪人正機説ではないが,人間はいい事もするし,悪いこともする.ハッカーというラベルの貼られたコンピュータオタクたちを,一様に正義だの悪だのと分類するのはおかしい.