耳からの略語と目からの略語(東西マクドナルド考)



あなたはマック派?マクド派?
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ヨタ記事にツッコミも無粋ですが…気になったので少々駄文を開帳(「開陳」でした15:10訂正)いたします.


ヘボンとヘップバーンはともに,Hepburnと綴ります.1859年10月17日(安政6年9月22日)に横浜にやってきたヘボンさん,江戸時代の日本人は耳で聞いて「へぼん」と書き記しました.ヘボン自身も,日本人相手に「ヘボン」や「平文」と名乗っていたそうです.


(望月洋子『ヘボンの生涯と日本語』新潮社、15ページ;ウィキペディア「ジェームス・カーティス・ヘボン」の項を参照)


対して,オーストリア出身の女優,オードリー・ヘップバーンさんは,1929年生まれ,かの『ローマの休日』が日本で公開されたのは,1954年(昭和29年)4月19日になります.この百年の間に,日本では英語を読む人も増えました.その昔の漢籍にはじまり,日本における外国語というのは,口語ではなく文語です.Audrey Hepburnと綴られている女優の名前をオードリー・ヘップバーンとローマ字読みに順ずるようカナ表記しました(最近はヘプバーンと書く人もいるようですが).


同様な事は,外来語の導入時期によってその表記の違いを生みました.文字を読む以前の耳から聞き取った音を日本語に書き記したのと,英字のつづりを日本式に読み下したものとの違いです.ミシンやメリケン(粉)などというのは,それぞれ,(Sewing) machine,Americanを当時の日本人がカタカナなで表記したものです.多少英語を話せる人であれば,今日のカタカナ英語のマシン,アメリカンよりは,ミシン,メリケンの方がmachine,Americanに近いというのがわかるでしょう.







ずいぶんと長い前置きでしたが,ようは,東京のマックはMcDonald'sのMacを日本語化(MAKKU)したもので,関西のマクドマクドナルド(≠McDonald's but MAKUDO-NARUDO)の先頭の三音を略したものです.


(註;Mc-,Mac-はともにアイルランドスコットランド系の名前に用いられる,Son of ~「〜の息子である」を意味する接頭辞です.つまりは,ドナルドの息子)


方式が違うものの優劣を比較するのは愚かな事です.どのみちMAKKUもMAKUDOも,こと英語との距離という観点で見れば訛ってる事に変わりありません.そして,日本において,その土地の日本語話者にとってなんら問題なく使えるであれば,どちらが正しいもへったくれもなく,それぞれに正しいのです.「マクドなんておかしいよな」とか「マックとかきしょわる」とか言うのは,どちらも井の中の蛙,五十歩百歩です.


ちなみに,ひょっとすると日本マクドナルドは『日本マクダーナルズ』になるところでしたが,創業者藤田田氏の英断(だと思います)で,今日我々が慣れ親しんでいる『マクドナルド』と決まりました.あ,そうそう,みなさんおなじみのドナルドだって,元々はRonald McDonaldですからね.Donaldじゃありませんよ.でも,ドナルドなら正解.


言葉は,語彙だけを切り離してその是非を論じるものではなく,それが用いられている土地や話者と一式で論じるべきものです.マック,マクドどちらも正しいんです.