FAB1,もしくは林家ペーと枯葉マークのクラウン



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トヨタ「クラウン」の憂鬱
大胆チェンジに踏み切った3つの理由
丸山 尚文,又吉 龍吾 : 2012年12月25日


新型クラウンのピンク色が似合っているとは思えない.社長よりは,林家ペーさんが横に立っている方がお似合いだろう.長年ピンクを背負ってきた事により,最早ピンク色を目にすればペーさんを想起せざるを得ない.



レクサスのほうれい線のようなグリルといい,最近のトヨタのスタイリングは隣国の歴史のように過去を捏造するかのようでいまひとつ,いや,ふたつもみっつもずれているような気がする.自動車の創業時に糸巻のグリルを付けたトヨタ車が存在したのならまだしも,トヨタの名前を消して売ろうとするレクサスに,家伝の糸巻をモチーフとした…と言われても何をかいわんやというのが正直なところ.現存する豊田自動織機は,トヨタの一部車種の組み立てを行うのみで,言うまでもなく組立車種にレクサスは含まれていない.そう,糸巻グリルがふさわしいのは,豊田自動織機の製造するフォークリフトの方だ.


そして,今度のクラウンに至っては,近頃のトヨタの迷走っぷりもここまで来たかとの感がある.


口の悪い自動車好きの間では,毎年オーナーの平均年齢が一切ずつ上がっていくクルマと揶揄されるクラウン.遠からずオーナーの平均年齢が70歳を超え,クラウンには枯葉マークならぬ高齢運転者マークが前後に標準装備されるのだろう.そして,ほどなくクラウンは消滅し,人々の記憶からも消えていく.

かつての宣伝文句の「いつかはクラウン」は,今の若い世代には微塵もアピールしないであろう事は論を待たない.おやじセダンの外装だけ若作りにしてみても,昨今のアンチエイジング同様なんとは無しに往生際の悪さを感じてならない.同じセダンでも,BMWやベンツが昔ほどでは無いにせよ,その威光を保っているのに対し,国産セダンはほぼ焼け野原と言っていいほどの惨状を呈している.レクサスにしても,日本市場においては,しばらく前のアメ車同様の一般受けしないセンスの職業の人たちが乗るクルマとの誹りを免れえない.


もっとも,ピンクの高級車がカッコ悪いかと言われれば即座に否定する例をひとつ紹介できる.


FAB1,通称ペネロープ号は,SF人形劇テレビドラマ,サンダーバードに登場するクルマで,のちのタイレル(ティレル)P34のような,前四輪,後ろ二輪の六輪でドーム状のグラスルーフを持つロールス・ロイスだ.

レディ・ペネロープことペネロープ・クレイトン=ワードの愛車とされるこのクルマは,車体が鮮明なピンク色に塗られていた.執事パーカーの運転するこのクルマは,その派手な外観にふさわしい様々な特殊装備を備え,時にサンダーバードら国際救助隊のメンバーをサポートしていた.幼心にピンクのロールス・ロイスはカッコいいクルマとして鮮明に刷り込まれた.ちなみに,日本語版レディ・ペネロープの声優は誰有ろう黒柳徹子女史だ.

ピンクのクラウンのどこがいけないかと言えば,その中途半端さだろう.レクサスのフラッグシップたるLFAがピンク色であっても誰もカッコ悪いとは言わない.もし,スーパーGTを戦うSC430がピンクであっても違和感は無いだろう.並みのクルマからかけ離れたパフォーマンスを背景にしていればこそ,突飛な色が憧れの対象にまで昇華される.



単なるおやじセダンをピンクに塗ったら女性にウケるだろうなんってのは,アタマがいかれているとしか思えない.非日常な色に見合うクルマでなければ,そこいらの珍走団の改造車と何ら変わるところがない.


ピンクのクラウンを看板に仕立てたいのであれば,全長10メートルのリムジンの限定色.さもなくば,チョップドルーフのドラッグレーサー仕立てでもいい.当然の事ながら,日産のGTRを0-400mで置き去りにするパフォーマンスでデビューする必要がある.モータートレンドが,LFAでGTRをぶち抜いたのを再現するんだ.


Drag Race: 2012 Lexus LFA vs 2010 Nissan GT-R



そこまでやってくれたら,クラウンは日本を代表するクルマだって誰もが認めるだろう.見たいのは,計算ずくでないトヨタの本気なんだが,迷走するトヨタは市場の意見を集めて船を山に登らせたいらしい.